ギャラリー情報

『岩井優│経験的道路』/ masaru iwai│ empirical road

2024年6月1日(土)〜 2024年6月23日(日)

岩井 優

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路上で経験する。手から手へ渡される道具の触感、くり返す振動、雑務として消去されていく経験をどのように記憶や記録としてとどめることができるだろうか。そんな素朴な問いをたずさえ、ぼくたちは2022年末から2023年初頭にかけて路上で制作をおこなった。作業を別の作業へと変換し、肌で感じる緊張感や作業をする上での気遣い、環境の変化を経験した。社会的衝撃を起点にした私的な記録写真と、その写真を素材として撮影した映像は経験を再経験していく過程を観察する。そして断片的で持続的な関心事を寄せ集め場所や時間を接続していきたい。この展覧会をとおしてイメージと経験的なものの境界をぶらつき、立ち止まり、また歩きだすように。

岩井優

 


岩井優/masaru iwai

1975年京都生まれ。国内外の地域にて参与的な手法で活動に取り組み、洗浄や清掃という日常行為に着目し、その背後にある社会的・記号的意味を顕在化するような映像やインスタレーション、パフォーマンスなどを発表。主な展覧会に、「見るは触れる 日本の新進作家 vol.19」(東京都写真美術館、2022年)、「ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW ?光の破片をつかまえる」(横浜美術館、2020)、「新・今日の作家展 2018 定点なき視点」(横浜市民ギャラリー、2018年)、「リボーンアート・フェスティバル 2017(宮城県石巻市街地、牡鹿半島、2017)、個展に「公開制作 83 岩井優 ハウツー・クリーンアップ・ザ・ミュージアム」(府中市美術館、2021)、「コントロール・ダイアリーズ」(Takuro Someya Contemporary Art2020年)など。

 

 


経験的道路が映すもの──

私事だが、最初の東京オリンピックの前の年に生まれ、高度経済成長を家族と共に生き、バブル期に社会に出た。今、コロナ禍の嵐の後、老境を迎えようとしている。常にこれが当たり前の世の中なのだ、と感じながら生きてきた。

コロナ禍が常態化していた2022年から2023年にかけて、私たちは連続ワークショップ「多摩の未来の地勢図をともに描くーあわいを歩く」において、岩井優による「経験的道路のプロジェクション」を実施した。ワークショップの参加者等とともに、とある住宅街に出かけていき、夕闇に、あるいは夜明けに、垂木やロール紙を用いて路上にスクリーンを立てた。造作の最中からスクリーンにプロジェクションされる画像は、かつて岩井が作業員として除染作業時に撮影した路上/道路だ。

作業する岩井の背中には、草一本生えていない路上/道路が繰り返し映し出される。スクリーンの外には日々の暮らしやかつての暮らしが存在する。

東京、茨城、福島と制作を続ける中、戦後のある時期にいっせいにつくられた戸建団地群の住宅の脇の側溝のセメントの蓋に、あるいは団地群と幹線道路のフリンジの、遊ぶ人のない公園に、強烈な、そして妙な行き場のない既視感がうまれる。匂いにすら、である。ホラー映画のような、現実味のない宙空/不在は、もしかしたら、バブル期の夕闇と通じているかもしれない。時空は縦横に捻れていく。海岸近くの道路が白々と明けていくなか、再び現れる生活の痕跡は全ての人にとって痕跡だ。

参加するひとり一人は、それぞれの生の時間を背負ってそこに立ち、インパクトドライバーやら刷毛やらバケツを持って行き来する。それぞれの人がそれぞれの生の時間を抱えて、それぞれに何かを想起する。その一方で、この時代を成り立たせてきた「私たち」の社会の、鵺(ぬえ)のような大きな、明けることのない息苦しい暗闇に、岩井の営みは私たちの想像力を押し出す。

最後の制作の日、深夜から明け方に映し出され、日の出とともに消えていった風景は、鵺を消し去るようでいて、決してそうではなく、鵺は常にそれぞれの生の場の背後に、私たちの暮らしの足元に存在する。

宮下美穂  KOGANEI ART SPOTシャトー2F


イベント情報

61日・623日 トークイベント開催(入場無料)

 

本企画は、アートフル・アクション主催の企画です