これまでその土地には見えない線が引かれていて、近づくこともなかった。その境界はわたしの中に変わらず存在しているが、気付いたら家族が出入りするようになっている。ここはわたしの庭なのか。庭になり得るか。石が残っているのに?
残された石は、誰かの家の屋根瓦だ。瓦が落ちて割れたとき、すぐに直しに行けるよう、瓦屋さんが大事に残してきた瓦だった。今は破片だけが散らばっている。
すっかり丸くなってしまって。という言葉の通りに、瓦屋さんとわたしの庭を繋ぐ砂利道で転がり続けた瓦は、他の石と同様に地面と馴染んでいて、道具としての面影もない。あの土地に残された瓦も、いつか見分けがつかないくらいに丸くなってしまうのだろうか。
三枝 愛(みえだ あい)1991年 埼玉生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科油画専 攻修士課程在籍。2014年秋から現在まで、自身の生まれ育った環境とその変化を見守 る作品「庭のほつれ」を展開。2016年8月より 京都伏見の元酒蔵、共同スタジオ GURA入居。2017年2月より西陣に暮らしの拠点を移す。現在は主に埼玉と京都を拠 点に活動を続けている。
主な展覧会に、2017年「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」( O JUN賞 / 岐阜県美術館 / 岐阜)、「 群馬青年 ビエンナーレ2017 」(群馬の森野外展示 作品賞 / 群馬県立近代美術館 / 群馬)、2016年 個展「 庭とアパラチア」(Gallery Valeur / 愛 知)、個展「AAWs 山の砂の砂の山 vol.1-3」(sanka / 東京)、「アタミアー トウィーク2016 流れ澱み沸き漂う」(渚町元スナック / 静岡)、 「MORPH」(元・立 誠小学校 / 京都)などがある。